研究概要 |
小児てんかん約150例において、脳波基礎波活動の定量的分析(パワースペクトラム解析)および聴覚事象関連電位(P300)を経時的に測定し、小児てんかんにおける中枢神経系および認知機能の年齢発達を定量的に評価した。本年度は特に抗痙攣剤のこれらの発達に与える影響について検討した。 1.脳波基礎波活動、1)治療開始前後での変化:Carbamazepine(CBZ)を投与した部分てんかん例では投与3-6カ月後に基礎波活動の有意な徐波化を認めた。これに対して、Valproicacid(VPA)を投与した全般てんかん例では変化は認めなかった。2)投与中の変化:CBZおよびVPA投与群とも、発作抑制が良好な例では基礎波活動の年齢発達は認められた。しかし、変化率は正常小児に比べて若干小さかった。3)治療中止前後での変化:全体的に中止後に明らかな基礎波活動のcatchup(θの減少,α-2の増加)を示す傾向を認めた。2.P300潜時(特発性部分てんかんにおける検討)、1)治療前後での変化:抗痙攣剤投与にも拘わらず潜時の短縮を示す傾向を認めた。2)投与中の変化:正常児に比べて軽度の延長を示すが年齢経過による潜時の短縮は認められた。3)治療中止前後での変化:多くの例では中止直前までにほぼ正常な潜時に改善していたが、一部の例では中止後に明らかな短縮を示した。 抗痙攣剤療法は中枢神経系の発達(基礎波活動の年齢変化)に対して、主たる原因ではないもののある程度影響しており、且つ薬剤の種類によって若干その程度が異なることが示唆された。一方、認知機能の発達(P300潜時)に対しては、影響は極めて少ないことが推察された。以上より、小児てんかんに存在する両機能の発達障害は、主にてんかん原性そのもの,発作予後などに起因していることが推察された。
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