臨床的に重度の精神運動発達遅滞、特異顔貌、肝障害をみとめ、相補性解析によりペルオキシソームβ酸化系酵素のアシル-CoAオキシダーゼ(AOX)欠損症および二頭酵素(PH)欠損症と診断された4症例の遺伝子レベルの成因を明らかにし、診断・治療法を開発することを目的として研究を行い、以下の成果を挙げた。 1)ラットcDNAをプローブとして用い、ヒトAOXの全長cDNAをクローニングした。ヒトcDNAは3083bpで、661アミノ酸をコードし、C末にはペルオキシソーム局在シグナルであるSKL motifを有し、ラットと89%のホモロジーを有していた。 2)上記ヒトAOXcDNAの塩基配列に基づき、AOX欠損症同胞例(近親婚)の変異解析を行い、1アミノ酸置換(M278V)を見い出した。両親は本変異の保因者であった。 3)ラットPHcDNAをプローブに用いてヒトPHcDNAを既報のものとは独自にクローニングしたところ、11ヵ所で塩基の相違(うち8箇所はアミノ酸も変化)を認めた。このPHcDNAの塩基配列に基づき、PH欠損症2例の変異解析を行いA274T変異をホモで見い出した。 以上、ペルオキシソームβ酸化系酵素欠損症の分子遺伝学的基礎を確立できた。
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