重症複合免疫不全症(SCLD)は細胞性、液性両免疫能の重篤な障害を呈する多様な遺伝性疾患の総称であるが、B細胞を有する伴性劣化遺伝型SCID(B(+)SCID)の責任遺伝子はIL-2、IL-4、IL-7などのレセプターに共通なコンポーネントcommon γ(γc)鎖であることが証明されている。本症は早期に診断し、骨髄移植に成功すれば根治が可能であるが、最適な骨髄ドナーを得ることは容易ではなく、わずかなHLA不適合があっても、種々の程度の免疫不全が残る場合が多い。本研究ではSCIDの治療におけるこうした問題点を解決するために、B(+)SCID患者のγc鎖遺伝子の解析を行い、早期診断法、保因者診断法を確立するとともに、骨髄移植後長期にわたるキメラ状態について解析し、移植後の免疫不全状態の病態解明を試みた。 B(+)SCID8例のγc鎖遺伝子解析を行ったところ1例にγc鎖遺伝子全体に及ぶ大欠失、1例に19bpの小欠失、1例にナンセンス変異、4例にミスセンス変異を認めた。しかしながら、残る1例では本遺伝子に異常が認められず、B(+)SCIDの病因の多様性が示唆された。最近、γc鎖からのシグナル伝達に関与すると考えられるJAK-3分子の障害によりB(+)SCIDが発症するとの報告なされ、この症例についてもJAK-3遺伝子の解析を進めている。 B(+)SCIDに骨髄移植を行う場合、HLAが近似であれば前処置を行わない場合が多い。HLAが遺伝型一致の場合には移植後に免疫能は全く正常化すると考えられるが、遺伝型一致でない場合には、低γグロブリン血症など免疫不全を残す場合が多い。今回の検討により、前処置を行わないために移植後長期にわたり患者由来B細胞が残存し、B細胞アナジー類似の状態におかれていることが示唆されて。移植後の免疫不全の病態についてさらに検討し、治療法の改善に努める必要があろう。
|