周産期の低酸素性虚血性脳障害は、発達障害の主たる原因でありその治療法ならびに予防法の確立が急がれる。われわれは、新生仔ラットに抵酸素性虚血性負荷を与え脳障害を作製し、その脳における一連のグリア細胞の反応と神経栄養因子の一つである血小板由来成長因子(PDGF)の動態を検索した。われわれは、平成6年度は主とし低酸素性虚血性負荷後のグリア細胞反応を免疫組織学的に検索した。モデルラットは生後7日目の新生仔ラットの左頸動脈を結紮しその後低酸素負荷を与え作製した。その結果、障害の非常に早期の段階からミクログリアが反応し、24-48時間後にアストログリアが反応し始めそれぞれ病変の成立および修飾過程に働くと考えられた。また、近年虚血性の障害から神経細胞を保護する物質として、各種の神経栄養因子がその作用を有することが報告されてきた。そこで、平成7年度は主として、神経栄養因子の一つであるPDGF-B鎖に注目し、障害脳における発現を観察した。方法としては、PDGF-B鎖およびその特異的受容体であるβ受容体の発現を、免疫組織化学的および分子生物学的に検索した。その結果、PDGF-B鎖およびその受容体の蛋白およびmRNAはともに低酸素負荷後一過性に発現が亢進していた。また、梗塞巣周囲の神経細胞は最も強くこれらを発現しており、その持続も長かった。これらのことより、PDGF-B鎖はその神経栄養作用を通じて、sublethalな障害を蒙った神経細胞の変性過程に働き、神経細胞保護に働いていることが推察された。今後は、PDGFの発現機序についての検索や、さらに幼若な動物いわゆる未熟児における発現動態、また実際の投与によるin vivoでの生物学的効果など検討する課題は多い。
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