ジストロフィン遺伝子は巨大で、未知の部分も多く、新しい事実が今なお次つぎに明らかにされている。現在までに、組織特異的な発現を調節しているプロモーターは5個同定され、それぞれのプロモーターによって発現したジストロフィン・アイソフォームは、脳型、筋型、プルキンエ細胞型、シュワン細胞型、一般臓器型ジストロフィンと命名されている。今回、我々は、ジスロトフィン遺伝子の5'側最上流に位置するプロモーター・転写開始領域を同定・解析したところ、その構造の一部は分散性反復配列に由来することが明らかになった。 ジストロフィン遺伝子5'端の754領域からイントロン2の途中まで欠失している患者のリンパ芽球中のジストロフィン遺伝子転写産物を検討したところ、エクソン3の塩基配列を含む転写産物が存在した。これはエクソン3上流に新たなプロモーターが存在することを示唆している。この転写産物のエクソン3上流の塩基配列を明らかにする目的で5'‐RACEを行なった。その結果、46bpの5'側の塩基配列を得た。また、この転写産物は、健常者のリンパ球mRNAにも存在した。次いで、この転写産物のプロモーター領域の塩基配列を明らかにする目的で、逆PCRを行なった。逆PCR産物の塩基配列を決定した、プロモーター領域および第1エクソン下流のイントロンの構造を明らかにした。塩基配列解析の結果、プロモーター領域および第1エクソン下流のイントロンの一部は分散性反復配列MER17ファミリーに由来することを見出した。このことは、ジストロフィン遺伝子の分子進化においても、分散性反復配列が大きな役割を果たしたことを示している。
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