染色体異常のモザイシズムの存在は、出生前診断で誤診に直結する重大な問題であり、適切な対応策が求められている。本研究は、羊水細胞による出生前診断における染色体異常モザイシズムの実態を検討し、分子遺伝学的方法を用いた新しい診断方法を開発することを目的とした。過去に実施した羊水診断1102例を対象として、モザイシズムをレベル1(単一細胞に異常)、レベル2(単一フラスコに複数細胞の異常)およびレベル3(複数フラスコに複数細胞の異常)に分け検討した。モザイシズムは合計77例(7.0%)に認められ、レベル3のモザイシズムはトリソミ-18、トリソミ-21、t(14;15)、inv dup(15)の5例(0.4%)、レベル2は常染色体トリソミ-、構造異常、性染色体異常の10例(0.9%)、レベル1は種々の異常の62例(5.8%)であった。モザイク例の母親年齢は非モザイク例に比してより高齢であった。モザイシズムの新しい診断法として、染色体特異的サテライトDNAをプローブとしたFISH法とPRINS法(primed in situ hybridization)とを間期細胞に応用した。後者は染色体特異的サテライトDNAの反復配列の特異塩基配列の一部をプライマーとしてDNAにhybridizeして、ラベルしたヌクレオチドを用い、polymerase反応でDNAを伸展させてシグナルを検出するものである。いずれの方法でも、真のモザイシズムであるレベル3の3症例では、過剰なシグナルが正常コントロールに比して有為に高率に認められたが、偽のモザイシズムであるレベル1の3症例ではシグナル数に有為差は認められなかった。出生前診断におけるモザイシズムの出現頻度は非常に高率であり、診断には慎重な対応が必要である。多数の間期細胞を分析しうるFISH法やPRINS法は、その診断の確認に有用であるが、とくに、プリンズ法は簡便で経済性に優れており、今後汎用しうるものと考えられた。
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