高比重リポ蛋白(HDL)はその蛋白組成によりアポA2を持たないLpA1とアポA2を持つLpA1/A2に分類され、その抗動脈硬化作用はLpA1によるものである。私達は平成6年度の研究でLpA1が大、中、小の三つの粒子から成り、血中のLpA1濃度は大粒子濃度に依存していること、更に大粒子が中・小粒子の持つ強力な泡沫細胞からのコレステロール(C)引き抜き能及びCのエステル化能を調節していることを明らかにした。血中大粒子の増加は中・小粒子の機能を抑制し、その減少は亢進させる。この事実はこれ迄のLpA1の抗動脈硬化作用(LpA1の増加は泡沫細胞からのC引き抜きを増強し、C逆転送系を活性化させる)の概念と明らかに矛盾している。平成7年度の研究では、HDLによるCエステル化能と低比重リポ蛋白(LDL)の粒子サイズについて検討した。その結果、HDLでのCエステル化能はLDL粒子サイズと逆相関することを発見した。その関係は報告されている中性脂肪やHDL-Cとの関係より強く、LDLサイズの変化の70%を説明できる程であった。現在、動脈硬化形成機序として酸化LDL説が注目され、小さいLDL粒子は酸化され易く、動脈硬化惹起因子と考えられている。そこで、私達は血中LpA1の低下によるHDLでのCエステル化能の増加がLDLサイズを小さくし動脈硬化を促進すると考えるに至った。小児期のリポ蛋白異常児に於いてもCエステル化能はLDL粒子サイズと逆相関しており、低LpA1血症児ではLDLサイズは小さくなっていた。現在、同様な検討を動脈硬化性心疾患患者(CAD)について行っているが、CAD患者ではコレステロールエステル化能が明らかに上昇しており、LDLサイズも小さい。以上より小児における低LpA1血症も成人と同様にCADの危険因子と考えるべきであろう。今後、小児糖尿病患児、腎疾患児についても検討していく予定である。
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