研究概要 |
スーパー抗原SAとしてブドウ球菌由来のSEB、溶レン菌由来のSPE_S(SPE-A,SPE-C)を用いて、液性免疫を中心にSAに対する健康小児の生体防御機構を検討し、慢性炎症性腸疾患患者と比較した。 健康小児の血清中にはSEBおよびSPE_Sに対する特異的IgG抗体が保有されていた。その特異抗体の獲得時期は抗原による違いがみられ、抗体保有率が50%を越えたのはSEBで1歳、SPE-Aで11歳、SPE-Cで6歳であった。また、SAに対する特異抗体を含む血清は、それぞれのSAによるT細胞活性化をその抗体量依存性に特異的に抑制した。一方、γグロブリン製剤もこれらの抗体を含有しており、γグロブリン療法後の血清は、補充された抗体量依存性にそれぞれのSAによるT細胞活性化を抑制した。またrecombinant SEBを用いた検討から、SEBではエピトープが主にC末端aa225-234にあることが判明した。 慢性炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎4例,クローン病6例)での検討では、患者はSEB,SPE_Sに対する特異抗体を保有しており、特に抗SEB抗体価は健康小児と較べて高値であった。これらの抗体は健康小児の抗体と同様に,抗体量依存性にSAによるT細胞活性化を抑制した。また,SAに対する患者T細胞の応答性は健康小児と有意差を認めなかったが、クローン病ではSPE-Cに低反応を示す例がみられた。 以上の結果から、ヒト血清中に存在する特異抗SA抗体はSAに対する生体防御機構の一つとして生物学的な意義をもつことが判明した。慢性炎症性腸疾患ではその防御機構の破綻は証明できなかったが、健康小児でのデータをもとに、今後膠原病や川崎病などの炎症性疾患で検討を進めることが可能となった。
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