乳幼児-親精神療法の日本の乳幼児、母親と家族への適応上の問題点について研究するため、三歳以下の心身症的症状、育児上の問題や行動傷害を訴えて受診し、毎回60分の乳幼児-親精神療法を受けた症例を30例集めた。症例を親と乳幼児の要因の有無の組合せに基づき次の4グループに分類した。(1)乳幼児に医学的要因なく親に精神医学的要因なし:(2)乳幼児に医学的要因(発達傷害、先天性傷害など)あり、親に精神医学的要因なし:(3)乳幼児に医学的要因なし、親に精神医学的要因(鬱病、摂食傷害、神経症など)あり:(4)乳幼児の医学的要因あり、親に精神医学的要因あり。 平成6年度の調査をふまえ、今年度は、親が自己の内的表象を親乳幼児精神療法の中で十分に語ることができた症例に絞り、ビデオを用いて治療経過を詳しく分析した。特に、親自身の乳幼児期の記憶や葛藤が、治療場面の親-乳幼児の相互交流において、どのように言語的、非言語的に表出されるかを調べた。その際、親自身の乳幼児期の未解決の心理的葛藤が、治療場面で乳幼児投影され、乳幼児の特徴的な行動や症状につながることが観察された。その際治療者が乳幼児の代わりに、親の葛藤の投影対象の役割をはたし、親自身が気づきにくい感情を、よく理解し、受けとめてかえしてやると、乳幼児の症状が消えていくことが観察された。平成8年3月のロンドンにおける第6回国際精神分析学会リサーチ・コングレスにおいて、この知見を発表し、国際比較を行なった。
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