近年わが国で小児の精神的、心理的問題が増加し、低年令化、複雑化している。早期にリスクケースを発見し、小児期以降の精神的問題への発展を予防するため、欧米で発達した乳幼児-親精神療法の日本での適用について研究した。乳幼児-親-精神療法は、乳幼児の心身症的症状を乳幼児と養育環境の関係性障害とみなし、親と乳幼児の相互作用を直接詳細に観察しながら一緒に治療する。親の養育体験や家族葛藤の乳幼児への影響を解析することにより、親の葛藤の乳幼児への世代間伝達を発見し防ぐ。本研究は日本の症例における親-乳幼児精神療法の特殊性を明らかにし、国際的に比較した。 明らかな身体的要因をもたず、心理的、身体的症状や行動上、育児上の問題を訴えて相談にきた3才未満の核家族の乳幼児を30例集めた症例を親と乳幼児の要因の有無の組合わせにもとづき次の4グループに分けた。 (1)親、乳幼児に身体・精神医学的に診断される明らかな障害がない場合(9例) (2)乳幼児側に医学的要因(発達障害、先天性障害etc)がある場合(8例) (3)親側に精神医学的要因(鬱病 摂食障害etc)がある場合(11例) (4)両者の要因の重なる場合(2例) 欧米と同じく、日本の症例でも乳児が母親の葛藤に敏感に反応していることが明らかになった。又、親、乳幼児の要因の有無とその組合せにより、治療の焦点や留意点が異なった。親に精神医学的な要因がある場合は、親自身の養育体験や実家族との関係や両親像について取り組む必要があることがあきらかになった。 ビデオで記録された5例を国際比較した結果、日本の症例では(1)母親の初診時の緊張をほぐすことが大切であること(2)非言語的な交流により重点がおかれること(3)治療者が心理的な安全基地になりつつ、慎重に話を聞いてゆくことで、深い葛藤の解決が生じ、世代間伝達を防ぐ効果があることがわかった。
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