今回の研究では、磁気刺激を小児に応用して経頭蓋的に大脳皮質を刺激し、四肢から誘発電位を記録し、小児の中枢運動神経系(錐体路)の正常時における神経伝導を評価する。また、小児の中枢運動機能および錐体路系の発達に伴う変化を明らかにし、運動障害を持つ小児における中枢運動神経系の異常部位や機能障害を明らかにする。 今年度の実験目的は、成人における磁気刺激の安全性の検討と正常値の確立、および小児から磁気刺激による誘発電位を記録することである。刺激装置としては日本光電製磁気刺激装置SMN-1100を使用した。刺激には円形コイルと8の字コイルを用いた。 20名の正常成人において基礎的研究を行った。大脳皮質刺激後上肢の正中神経支配領域に誘発される電位の平均潜時は26.5msecであった。また、下肢の頚骨神経支配領域に誘発される電位の平均潜時は45.8msecであった。刺激前後で記録した脳波には、なんら異常を認めなかった。また、体性感覚誘発電位を磁気刺激の前後で記録したが、優位な変化は見られなかった。 6〜14歳の小児10例から磁気刺激による顔面神経の誘発電位の記録を行った。全例から顔面神経の誘発電位を記録することが可能であった。また、刺激による痛みもなく、副反応は見られなかった。続いて、大脳皮質刺激による誘発電位の記録を5例の小児から行ったが、すべての例で反応が得られた。また、副反応も認められなかった。 本年度は、小児の正常値を確立させ、運動障害を伴う児の所見について明らかにする予定である。この研究により、運動神経系、特に中枢部位の詳細な発達過程が明らかとなる。
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