今回の研究では、磁気刺激を小児に応用して経頭蓋的大脳皮質刺激を行い、四肢から誘発電位(MEP)を記録し、小児の中枢運動神経系(錐体路)の正常時における中枢神経伝導を評価する。また、小児の中枢運動機能および錐体路系の発達に伴う変化を明らかにし、運動障害を持つ小児における中枢運動神経系の機能障害を明らかにする。 今年度の実験目的は、小児における磁気刺激の安全性の検討と正常値の確立、および臨床応用の検討である。刺激装置としては日本光電製磁気刺激装置SMN-1100を使用した。刺激には8の字コイルを用いた。磁気刺激の施行に際しては本人または家族の承諾を得た。 10名の正常小児において基礎的研究を行った。大脳皮質刺激後上肢の正中神経支配領域(短拇指外転筋)に誘発されるMEPの平均潜時は20.4msecであった。また、潜時を身長で除すると成長とともに潜時/身長値が短縮する傾向が見られた・刺激前後で記録した脳波には、異常を認めなかった。また、体性感覚誘発電位を磁気刺激の前後で記録したが、優位な変化は見られず、磁気刺激は小児に対しても安全に行えるものと考えられた。 5〜12歳の脳性の運動障害を持つ小児13例からMEPの記録を行った。MEPは脳性麻痺の症状や重症度と結果が一致し、脳性麻痺の診断や重症度の評価が可能になると考えられた。また、刺激による痛みもなく、副反応は見られず、被験者も不快感は訴えなかった。小児における磁気刺激の使用には十分な注意が必要であるが、MEPにより多くの情報が得られ、MEPの施行はデメリットよりもメリットのほうが多いと考えられる。
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