小児の運動機能を定量化することは難しく、脳障害を持つ場合は特に困難である。しばしば、体性感覚誘発電位(SSEP)がこの目的のために用いられてきたが運動神経と体性感覚神経の違いがあり絶対的な評価はできなかった。ところが磁気刺激運動誘発電位(MEP)は経頭蓋的に大脳皮質を刺激して運動神経系(錐体路)の機能をみることができる。我々は、SSEPとMEPを脳性麻痺児から記録し、運動神経系の機能を比較検討した。対象は4〜12歳の22名の脳性麻痺児で、男女比は14:8であった。脳性麻痺の型分類は、痙性両麻痺13名、痙性四肢麻痺5名および片麻痺4名であった。また、対照は15名で健康成人(ボランティア)か、または検査時点で神経症状の認められない小児とした。全例本人および必要な場合は家族から了解を得た。磁気刺激は、日本光電社製磁気刺激装置(SMN-1100)にて、8の字コイルを使用して行った。記録は上肢では短拇指外転筋、下肢では短拇趾外転筋上皮膚表面から表面電極にてMEPを筋電図として導出した。脳性麻痺例でMEPにより運動障害の程度を他覚的に評価できた。しかし、SSEPは麻痺を必ずしも反映せず、運動障害の評価にはSSEPよりMEPの方が適していた。片麻痺の症例では、障害側(頭部)の刺激ではMEPの反応が見られなかったが、健側の刺激では両側の上肢から反応が得られた。痙性両麻痺の症例13例中7例では上肢の運動野の刺激で、正中神経領域と頚骨神経領域の両方からMEPが得られた。これらの症例は歩行が可能であった。MEPにより正常では存在しない運動神経系の活動がみられ、可塑性を示している可能性があった。小児における磁気刺激の使用には十分な注意が必要であるが、MEPによって多くの情報が得られる。また、副反応は1例にも認められなかった。
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