1)新規症例での遺伝子変異の同定: われわれは過去に、遅発型男子ornithine transcarbamylase(OTC)欠損症例についてOTC遺伝子解析を行い40番目のアルギニンがヒスチジンに置換する変異(R40H)および55番目のチロシンがアスパラギン酸に置換する変異(Y55D)の2種類の変異を見いだした。これらはいづれも過去に報告のない変異である。その後さらに3家系4症例の遅発型男子例を解析し、うち1例はR40H変異を見いだした。それ以外の症例では同変異は検出されず、現在解析中である。 2)変異OTC酵素の性質: R40H変異の証明された1症例の培検肝を用いてOTCの活性および基質親和性、pHプロファイルにつき検討したところ、活性は有意に低下しているが、基質親和性、pHプロファイルは正常対照と差がなかった。Western blottingでは活性低下に見合う程度のcross-reactive materialの減少を認めた。 変異OTC遺伝子の発現実験: 3)野生型OTCcDNAおよびsite-directed mutagenesisによって作成したそれぞれの変異OTCcDNAをlipofection法でcos-1細胞に導入、発現させ、OTCmRNAの発現レベルとOTC酵素活性を検討した。その結果、R40H、Y550変異のいづれもOTCm TNAのレベルは野性型と差を認めなかったが、OTC酵素活性はR40Hの変異では野生型の10-20%、Y55Dも30%程度の活性低下を認め、少なくともR40H変異に関しては病因的変異と考えられた。 4)以上の結果から、両遺伝子変異ともmRNAの発現、安定性は損なわれておらず、また動力学的性質も明かな変化を来さないが、生成した変異OTCタンパクの細胞内targetingまたは3量体の形成あるいは安定性に異常を来す可能性が考えられる。
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