研究概要 |
これまでの研究で,線維芽細胞は表皮細胞のコ-ニファイドエンベロップ合成を促進することを明らかにした。その機序を知るために,培養モデルの細胞組成をいくつか組み合わせ培養中のサイトカインを測定した。その結果,表皮細胞と線維芽細胞を同時に培養すると,それぞれを単独で培養したときに比べてIL-6が著増し,TGFαは逆に低下することを見い出した。このIL-6が,表皮細胞あるいは線維芽細胞のどちらに由来するかを調べるために培養上清液交換実験を行ったところ,IL-6は線維芽細胞が産生し,表皮細胞は線維芽細胞のIL-6産生を促進する物質を分泌していることが明らかになった。次に,IL-6が表皮のコ-ニファイドエンベロップ形成に影響するか否かを検討した。その結果,IL-6は20ngまで濃度依存的に表皮細胞のコ-ニファイドエンベロップ形成を促進した。この線維芽細胞のIL-6産生は,mRNAの発現増加を伴っていた。以上の結果から,線維芽細胞が表皮細胞の分化と増殖に影響を与える機序としてIL-6が深く関与しているものと考えた。 表皮基底膜成分の生成に及ぼす真皮成分の影響の研究では,まず再結合皮膚を用いた器官培養実験をおこなった。すなわち,健常皮膚をデスパーゼを用いて皮膚と真皮に分離し,真皮側を反転して再結合させる。この処置によって,表皮基底膜部を欠いた皮膚を作成できる。このとき,真皮側を凍結・融解して不活性化し,この処理を行わない真皮を用いたときと比較した。その結果,不活性化真皮を用いた時は,培養16日目においてVII型コラーゲンはごく軽度の沈着がみられ,anchoring fibrilは形成されていないのに対し,処置を加えなかった真皮を用いたときはVII型コラーゲンは線状の明らかな沈着を示し,anchoring fibrilも形成されていた。この結果から、VII型コラーゲンの沈着とanchoring fibrilの形成に真皮成分が影響していることが示されたが,その由来を決定することは出来なかった。 次に,表皮基底膜部に存在する2つの異なる細胞,すなわち基底細胞と色素細胞に注目して検索した。その結果,電顕的にanchoring fibrilは基底細胞下面に認められ,色素細胞下面には認められないことを見い出した。また,免疫電顕で検索した結果,VII型コラーゲンは基底細胞下面にanchoring fibrilに一致して陽性を示したが,色素細胞下面では痕跡程度であった。色素細胞下面の陽性所見は,無構造で線維を形成していない小顆粒状物質とともに認められた。これらのことから,VII型コラーゲンは主として表皮基底細胞由来であり,色素細胞下面の観察からVII型コラーゲンが存在しても常にanchoring fibrilを形成するとは限らないことが示された。
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