種々の分化段階にある培養表皮細胞が発現する天疱瘡抗原を蛋白およびmRNAレベルで調べた。その結果、尋常性天疱瘡抗原(dsg3)は、培養表皮細胞の単層部と重層化した部分の両方に発現されていたが、落葉状天疱瘡抗原(dsg1)は重層化した部分に強く発現が認められた。Western blot法およびRT-PCR法では、培養表皮細胞にはdsg3に相当する130kD分子とdsg1に相当する150kD分子と、それぞれの mRNAの発現がみられた。それぞれの抗原量を比較すると表皮細胞の分化にしたがって130D分子が減少し、150kD分子が相対的に増加した。いかなる培養条件においても、colon type のdesmogleinであるdsg2(HDGC)の発現は誘導できなかった。以上の結果から、正常表皮細胞は尋常性天疱瘡抗原であるdsg3と落葉状天疱瘡抗原であるdsg1が主なdesmoglein分子であり、細胞の文化とともにdsg1が主要な分子となり、分化の過程で落葉状天疱瘡抗原のepitopeを獲得するものと考えられた。表皮細胞の分化にともなう天疱瘡抗原の発現量の違いが、尋常性天疱瘡において認められる基底層直上での棘融解と落葉状天疱瘡の角層下での棘融解を規定するひとつの要因であると考えられた。さらに、有棘細胞癌細胞はdeg2(HDGC)とdsg3(PVA)の組み合わせでdesmoglein分子が構成されており、glycosylationの異常を示すことも分かった。すなわち、癌細胞のdesmosomeは未分化なdesmoglein isoformの組み合わせからなり、その発現異常が癌細胞が正常表皮細胞角化とかけ離れた無秩序な増殖や浸潤を引き起こす要因の一つと考えられた。
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