マウス神経管培養系を用いて、メラノサイトの分化におけるSCFの役割を検討した。 1 SCFとコレラトキシン(以下CT)併用添加群、SCF単独添加群、CT単独添加群、無添加群に分けてマウス神経管を培養し、抗c-Kit抗体にて免疫染色した。その結果、3日目では無添加群、CT単独添加群は共に若干のc-Kit陽性細胞が認められたが、6日目以降c-Kit陽性細胞が殆ど認められなかった。何らかの原因でc-Kit陽性細胞が死滅したと考えられる。これに対してSCF単独添加群およびSCFとCT併用添加群では日を増すごとに、c-Kit陽性細胞数は増加した。以上の結果から、SCFはc-Kit陽性細胞の生存の維持あるいは増加に関与していることが明らかとなった。 2 c-Kit陽性細胞の出現に効果的なSCFの作用時期を検討するため、SCFの添加日をずらしてマウス神経管を培養し、c-Kit染色を行った。その結果5日目以降では、SCFを添加してもc-Kit陽性細胞は認められなかった。メラノサイトの前駆細胞はc-Kit陽性細胞となり培養0日から5日目未満に神経管から次々に出ていくが、SCFが存在しない場合死滅(アポトーシス?)してしまうため、培養5日目を過ぎてからSCFを加えてももはやc-Kit陽性細胞が存在しないので、SCFは役に立たないと考えられる。つまりメラノサイトの前駆細胞の生存(および増殖?)にSCFが関与することが判った。 3 免疫染色により、SCF単独添加培養した神経冠細胞中にTRP1、TRP2、チロジナーゼ陽性細胞が認められた。無添加では陽性細胞は無かったので、SCFはメラノサイトの前駆細胞の生存の維持だけでなく、メラニン産生に関与する酵素を保有するまで分化を進行させることが示唆された。
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