放射線治療後の形態温存の代表的な現象として、鼻原発の偏平上皮癌、鼻原発の悪性リンパ腫、転移性骨腫瘍などの治療前後の画像的比較がなされた。いずれも単なる組織修復だけの現象とは断定できず、形態再生に関わる分子生物学的機序について、解析が必要であることを再確認させられた。 照射後の組織標本のE-cadherin抗体による染色では、40Gy程度照射後は細胞膜表面の染色性が一時的に低下するが、65Gy照射後5年目の粘膜ではE-cadherinが再度増加していた。これは、放射線治療後の形態再生に細胞接着因子の役割が関与していることを示している。 in vitroの実験系としては、migration assayにおいて上皮細胞HSC3およびca9-22どちらでも、繊維芽細胞MRC5の10Gy照射後のconditioned mediumにより、細胞遊走が非照射conditioned mediumよりも強く起こることがわかった。MRC5が産成している液性因子としては、fibrinonectionとHGFがbioasseyで同定された。特に、HGFに関しては、10Gy照射後24時間で上昇することがnorthern blottingおよびimmunobiochemicalな定量法で初めて明らかにされた。HGFは、数々の臓器において形態形成において極めて重要な役割を担うことはよく知られており、われわれの発見は放射線治療後の形態形成にHGFなどの形態形成因子の増加が関与していることを示唆している。 以上のごとく、まだ未解決の問題も多いが放射線治療後の形態再生の機序を明らかにする端緒として、分子生物学的検討が重要なことが示された。
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