研究概要 |
目的:無酸素脳症の磁気共鳴画像(MRI)所見はきわめて多彩であるが,その経時的変化を検討し,剖検例では画像所見と病理所見を対比する. 方法:臨床例8例の無酸素脳症においてMRI上の経時的変化を検討した.MRI装置はシーメンス社製マグネ-ムH15で,スピンエコー法によって軸位断のT1強調像,T2強調像を施行し,適宜冠状断を追加した.このうち剖検が得られた2症例では,主にH-E染色,髄鞘染色により組織学的検討を行った. 結果:臨床例のMRIの経時的観察では,発症1週〜10日以内の急性期には,MRのT2強調像で大脳皮質は高信号となって瀰慢性の脳腫脹を示した.亜急性期早期(〜20日)には造影T1強調像で,脳回表面に沿って線状の増強効果が見られ,亜急性期後期(〜30日)には単純T1強調像でやはり脳回に沿って線状高信号が出現した.慢性期(1.5ヶ月〜)には脳室拡大など脳萎縮所見が進行して,T1強調像の脳表の線状高信号は消退してゆき,T2強調像で白質に著名な高信号が出現した.組織学的所見との対比では,T1強調像で脳回に沿った線状高信号部位に一致して,大脳皮質に層状壊死所見が認められた.この壊死巣内には脂質を貧食した大食細胞の浸潤が軽度に認められたが,出血巣はなかった.T2強調像で高信号を呈した白質域には髄鞘脱落,グリオーシスを認めた. 考察:亜急性期の皮質に沿ったT1強調像の線状高信号は皮質の層状壊死を反映すると考えられた.高信号を示す理由として,壊死部の大食細胞に貧食された脂質を推定していたが,それを支持する組織学的な所見は得られなかった.従って,この特異なMRI所見の理由を本研究でも解明できなかった.慢性期の白質の変化は大脳皮質の変化にともなって二次的に起ってくる変性を表すと推察された.
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