研究概要 |
てんかんの病因には複雑かつ多岐にわたる生化学的変動が関与しているが、このような病態生理の基盤におけるG蛋白質の意義について明らかにするため、キンドリングモデルを用いた研究を重ねてきた。初年度(平成6年度)の研究では、キンドリング脳における百日咳毒素によるADPリボシル化反応の変化を検討し、最終発作3週間の時点で、両側の大脳皮質および海馬のADPリボシル化反応が増大していることを見いだした。また、キンドリング脳におけるnitric oxide感受性の内在性ADPリボシル化反応も増大していることを見いだした。これらの結果から、GiないしGoの量的または機能的な変化と、てんかん原性獲得とが重要な関連を有していることが示された。しかし、G蛋白質はサブクラス毎に機能が大きく異なり、てんかん原性獲得機構におけるG蛋白質の意義を解明するにはサブクラス個々の変動を検討する必要があるため平成7年度の研究では、キンドリング脳におけるGs,Go,Gi1,Gi2の各サブクラス別にmRNAレベルでの変化についてnorthern blot法による検討を加えた。その結果、最終発作後24時間および3週間放置した時点で左側大脳皮質においてGi2mRNAの発現の著明な増大と、最終発作後24時間の時点での両側大脳皮質におけるGsmRNA発現の増大が認められた。また、最終発作後3週間の時点でも右側(非刺激側)大脳皮質および左側海馬においてGsmRNA発現の著明な増大がみられた。 以上の結果は、てんかん原性獲得や発作発現機構においてmRNAレベルでのG蛋白質の変化やそれらの関連伝達系の機能変化が重要な意義を有していることを示すものといえる。特にGsおよびGi2の量的ないし機能上の複合的な変動に起因する関連伝達機能の障害がてんかんの病態生理の多様な側面において重要な意味を持つことが本研究により明らかとなった。
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