本研究において、我々は遅発性ジスキネジアの「活性酸素仮説」の検証を進めた。同時に、この分野の研究に必要な幾つかの研究技術を新たに開発した。得られた結果は次のようである。 1.活性酸素は強い神経毒性をもつが、わけてもヒドロキシ・ラジカルにおいてその作用が強い。ヒドロキシ・ラジカルは過酸化水素より生ずるが、この反応は鉄イオンの触媒下に進行する。そこで、我々はまず、抗精神病薬慢性投与後の脳内の2価と3価の鉄イオンの挙動について検討した。脳内の2価と3価の鉄イオンには、当初の予想に反して、明らかな変化がなかった。しかし、本研究遂行のために開発した電子スピン共鳴法を用いた鉄イオンの計測法はこの方面の研究に有用な手段となるものである。 2.抗精神病薬投与後の脳内の過酸化水素濃度と脂質過酸化反応の程度について検討した。過酸化水素は電極法を用いて計測し、脂質過酸化反応は脂質酸ラジカルを指標に検討した。過酸化水素生成の亢進と、細胞膜の脂質過酸化反応の進行が観察された。 3.ビタミンE、ビタミンC、イデベノン(アバン)の抗酸化作用を生体計測用電子スピン共鳴法を用いて検討し、いずれにも強い抗酸化作用を認めた。この結果は、遅発性ジスキネジアに対する治療薬としての可能性をさぐるための基礎データとして重要である。 4.ス-パオキサイド・アニオンの計測法を確立した。今後、この方法を応用して、遅発性ジスキネジアの「活性酸素仮説」の詳細を追求できるはずである。 本研究でえられた成果と、新たに開発された研究技術は遅発性ジスキネジアの「活性酸素仮説」の理解とそれに基づく治療法の開発に新しい指針を与えるものと考える。
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