平成6年度の本研究では、概日リズムに関する視交叉上核(SCN)へのセロトニン入力の機能的役割、とくに光刺激による同調機構への影響を明らかにすることを目的とし、セロトニン入力遮断によるSCNのVIP産生への影響をin situ hibridization法とコンピューター画像解析装置を用いてVIPmRNAの変動を測定することにより検索した。その結果以下の2点が明らかになった。 1)明暗条件下の明期において、セロトニン入力の遮断によるVIP免疫反応の低下が線維終末での放出促進によるものか細胞体での産成の低下に起因するものかを検索した。セロトニン入力の遮断によってVIPmRNAは有意に低下してることが明らかになり、セロトニン入力はSCNのVIPニューロンに対してmRNAレベルで影響を与え、主としてVIPの産生を調節していることが示唆された。 2)明暗条件下の暗期においても、セロトニン入力遮断によるVIPmRNAの変動を検索し、明期での変動と併せて、VIPの日内リズムに対するセロトニン入力の影響を検討した。その結果、暗期にはPCPA投与群とコントロール群の間に有意な差はなく、前述したような明期においてのセロトニン入力の遮断によるVIPmRNAの低下は暗期には認められないことが明らかになった。明期において認められたようなセロトニン入力の遮断によるVIPmRNAの低下は暗期には認められなかったことより、光刺激の入力により低下するVIPmRNAに対して、セロトニン入力はその影響を緩和するという機能を果たしていることが示唆された。 このことは、光刺激による同調機構を有するSCNのVIPニューロンに対して、セロトニンが調節的に機能していることから、生体リズムの異常に関連が深く、かつセロトニン神経系の神経伝達機能異常が関与すると考えられている精神科疾患の成因と発現に示唆を与えるものであると考える。
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