平成7年度の本研究では、概日リズムに関する視交叉上核(SCN)へのセロトニン入力の機能的役割、とくに光刺激による同調機構への影響を明らかにすることに加えて、種々の精神科疾患と概日リズムの形成機構の関連を明らかにすることを目的とし、セロトニン入力遮断や加齢によるSCNのVIP産生への影響をin situ hibridization法とコンピューター画像解析装置を用いてVIPmRNAの変動を測定することにより検索した。その結果以下の2点が明らかになった。 1)明暗条件下の明期においてセロトニン入力の遮断を行うとVIPmRNAは有意に低下してたが暗期においてはこのような変動は生じなかった。このことより、光刺激の入力により低下するVIPmRNAに対して、セロトニン入力はその影響を緩和するという機能を果たしていることが示唆された。したがって、セロトニン受容体の感受性が亢進していると考えられているうつ病の準備状態に対して、何らかの機転によって一過性にセロトニンの過剰伝達が生じることは24時間に同調している日内リズムの形成に破錠をきたしうるものと推測される。 2)老齢ラットを用いた加齢に伴う影響の検索では、明暗条件下においてもVIPmRNAの発現に明期と暗期の有意の差が認められなくなることが明らかになった。このことから加齢に伴う生体リズム形成の異常が視交叉上核のVIPニューロンの機能異常を介した影響であることが示唆され、このような疾患に対しての生体リズム形成の強化に基づいた治療への応用が期待できる。
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