研究概要 |
記銘・記憶障害を主症状とする疾患においてその病態を検討することにより,さかのぼって記憶過程の解明をめざすアプローチとして我々が注目したのは,神経細胞における長期増強機構であり,この発生機序にはグルタミン酸やカルシウム代謝とともに一酸化窒素の関与が想定されている。そこで,本研究ではアルツハイマー型痴呆においてこれらの物質の変化を検討することを計画した。そして,これまでに,正常対照老人剖検脳において一酸化窒素合成酵素の分布を免疫組織化学法により検討するとともに,記憶と関連が深いとされるマイネルト基底核ではアセチルコリンとの二重染色も行った結果,大脳では皮質深部および白質に一酸化窒素合成酵素含有細胞が散在していることが明らかとなったが,マイネルト基底核でのアセチルコリンと一酸化窒素合成酵素との共存は認められなかった。また,老人斑や神経原線維変化における一酸化窒素合成酵素様免疫活性の存在の有無は現在検索中である。一方,長期増強機構と関連が深いとされるグルタミン酸濃度を高速液体クロマトグラフィーにより脳内で測定したところ,アルツハイマー型知能患者剖検脳では対照老人脳に比べて有意に低下していることが明らかとなった。これらのことからアルツハイマー型痴呆脳では長期増強機構も病態に巻き込まれている可能性が示唆されてきたが,以上のように当初計画した検討はほぼ予定通り進んでおり,最終年度における分子生物学的手法による結果と合わせて3年間の成果をまとめていくつもりである。
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