主要な痴呆性疾患であるアルツハイマー病は、分子遺伝学的研究から早期発症型家族性アルツハイマー病について、presenilin I、 presenilin II、 amyloid precursor proteinの遺伝子変異が明らかにされ、晩期発症型アルツハイマー病はapolipoprotein Eとの相関(association)が報告されている。そこで、本研究では弧発性アルツハイマー病について、apolipoprotein Eの近傍に位置するapolipoprotein CII(Apo CII)との相関を検討した。 対象は、NINCDS-ADRDA(National Institute of Neurological and Communicative Disorders & StrokeとAlzheimer's Disease and Related Disorders Association)の診断基準にてprobable Alzheimer's Diseaseと診断された晩期発症孤発例39名、早期発症孤弧発例34名、正常対照群92名である。これら対象の末梢血より抽出したgenomic DNAを鋳型として、Apo CII遺伝子の第3イントロンの多型部位をPCR法で増幅した。得られたPCR生成物を電気泳動後、エチジウムブロマイドで染色しバンドを同定した。その結果、375bp(1)と335bp(2)のバンドが認められた。これらの1、2対立遺伝子頻度と遺伝子型の頻度を各群間で比較したところ、早期発症型は正常対照群との間に有意差は見られなかったのに対して、晩期発症型は、1対立遺伝子と1-2遺伝子型の頻度が正常対照群に比較して有意に高く(p<0.05)、遺伝子相関が認められた。さらに大阪大学老年病学教室との共同研究でもこの結果を確認した。これらの結果は、アルツハイマー病が単一の疾患ではなく、ことに晩期発症孤発例については、Apo CII遺伝子が発症に関与すること示唆している。
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