精神分裂病における脳内神経回路異常に関する分子薬理学的研究

1994 年度 実績報告書

• 研究課題/領域番号: 06670993
• 研究機関: 国立精神・神経センター
• 研究代表者: 西川 徹 国立精神・神経センター, 神経研究所, 部長 (00198441)
• 研究分担者: 三国 雅彦 群馬大学, 医学部・神経精神医学教室, 助教授 (00125353)
• キーワード: 精神分裂病(分裂病) / Methamphetamine / Cocaine / Phencyclidine / Haloperidol / SCH23390 / c-fos遺伝子 / GAP43遺伝子

研究概要

精神分裂病(分裂病)の症状発現に関与する脳内神経回路を明らかにする目的で、分裂病様症状惹起薬であるmetham phetamine(MAP)あるいはphency clidine(PCP)を投与した8週令の雄性ラットの脳における最初期遺伝子c-fosまたは神経軸策の伸長時に成長錘に出現するGAP43遺伝子の発現を調べた。一部の実験では、MAPあるいはPCPを投与する30分前にD2型ドーパミン受容体遮断薬であるhaloperidolやD1型ドーパミン受容体の選択的遮断薬SCH23390を腹腔内注射した。昨年度までに報告したように、MAPとPCPの急性投与によってc-Fos様免疫反応陽性細胞が脳の広い範囲にわたって出現したが、その分布パターンには著しい差が認められた。本年度の実験では、haloperidolやSCH23390を前処置しておくと、MAPによるc-Fos様免疫反応の出現が著明に抑制されることが新たに明らかになった。ドーパミン受容体遮断薬とMAPを併用投与したラットにおけるc-Fos様免疫反応は、分布と強度の双方の点で、それぞれのドーパミン遮断薬単独投与時と類似していた。これに対して、PCPによって発現するc-Fos様免疫反応はhaloperidolの前処置を行っても、軽度の抑制しか見られなかった。これらの結果は、MAP投与ラットに認められる異常行動やMAPを乱用したヒトに出現する分裂病様症状は、haloperidolなどの抗精神病薬によってよく改善されるのに対して、PCPによる異常行動や分裂病様症状には抗精神病薬が十分な効果を発揮しないという現象に対応すると考えられる。したがって、MAP投与後にc-Fos陽性細胞が密に出現する脳部位が抗精神病薬が奏功する分裂病症状に関係し、PCPとhaloperidolを併用した時にc-Fos様免疫反応が強く見られる部位が抗精神病薬に抵抗する分裂病症状と関連する可能性がある。一方、MAPを急性した後1時間から4日までの種々の時点で、大脳新皮質、海馬、線条体などにおけるGAP43遺伝子mRNAの発現を半定量的に検討したが、生理食塩水投与を行った対照群に比べて有意な変化は認められなかった。また、MAPを2、3、4または5日間反復投与した後24時間においても、大脳新皮質のGAP43遺伝子mRNAの発現量には、生理食塩水投与群に比して有意差を検出できなかった。しかし、この方法では狭い範囲に生じた神経回路の変化を見いだせない可能性が高いため、現在in situハイブリダイゼイション法によって組織学的に検索中である。

研究成果

• [文献書誌] Nishijima,K.et al: "Preferential stimulation of extracellular release of dopamine in rat frontal cortex to striatum following competitive inhibition of the N-methyl-D-aspartate rcceptor" J.Neurochemistry. 63. 375-378 (1994)
• [文献書誌] Tanii,Y.et al.: "Stereoselective antagonism by enantiomers of alanine and serine of phencyclidine-induced hyperactivity,stereotypy and ataxia in the rat." J.Pharmacol.exp.Ther.269. 1040-1048 (1994)
• [文献書誌] Umino,A.et al.: "Methamphetamine-induced muclear c-Fos in rat brain regions" Neurochem.International. 26. 85-90 (1995)
• [文献書誌] Kashiwa,A.et al.: "Dizocilpine (MK-801) elicits a tetrodotoxin-sensitive increase in extra-cellular releane of dopamine in rat medial frontal cortex." Neurochem.International. (印刷中).
• [文献書誌] Hashimoto,A.et al.: "Extracellular concentration of endogenous free D-serine in the rat brain as revealed by in vivo microdialysis" Neurosuience. (印刷中).
• [文献書誌] Kumashiro,S.et al.: "Free D-serine in post-mortem brains and spinal cords of individuals with and without neuropsychiatric diseases" Brain Res.(印刷中).
• [文献書誌] Nishikawa,T.et al.: "The Biology of Schizophrenia-Developments in Psychiatry vol.10-" T.Moroji and K.Yamamoto,Eds.,Elsevier,Amsterdam, 274 (1994)
• [文献書誌] 岩間久行・西川徹: "精神分裂病II-おもに病因・病態論の立場から-(シリーズ精神科症例集2)" 佐藤光源編集,中山書店,東京, 396 (1994)