神経系の発達に伴う可塑的変化がストレス性刺激に対する脆弱性や躁うつ病の易発症性を形成している可能性が考えられる。われわれは、新生児期や胎生期の各種ストレス負荷が成熟後のストレスに対する視床下部-下垂体-副腎皮質系の調節機能にどのような影響を及ぼすかをこれまで検討してきた。本研究では、妊娠母体に生理的食塩水を皮下投与することにより負荷された胎生期ストレス性刺激が、成熟後の仔ラット脳視床下部におけるセロトニン濃度を増加させること、成熟後の恐怖条件付けストレス負荷に対するコルチコステロン分泌を有意に増大させること、また、行動学的には高架式プラス迷路試験における通路への進入頻度を低下させ、強制水泳試験での無動時間も有意に延長させることを明らかにした。したがって、胎生期ストレス負荷を経験して成熟した雄性仔ラットは無力感を学習しやすく、不安を懐きやすい、ストレス性刺激への適応が悪いモデル動物であるということができ、恐怖条件付けストレス負荷に対するコルチコステロンの過剰分泌という成績と併せて考えると、この胎性期ストレス負荷雄性ラットは臨床的にしばしば観察されるうつ病態と類似の病態を形成しやすいストレス脆弱性モデルとなる可能性が示唆されているといえる。現在、コルチコトロビン遊離促進ホルモンの免疫組織化学的測定やセロトニン-2A受容体のオートラジオグラフィーによる解析を行い、この動物脳の病態生化学的検討を行っている。また、成熟後のストレス暴露に際し、脳内に発現する最初期遺伝子群をin situハイブリダイゼイション法により解析を進めている。この胎生期ストレス負荷による発達に伴う可塑的変化を担う神経機構を明らかにすることがストレスに対する脆弱性や躁うつ病の易発症性の解明への有力な手がかりとなると期待される。
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