研究概要 |
糖尿病は多因子疾患であり、その発症には多くの遺伝子が関係していると考えられる。ミトコンドリア遺伝子異常と糖尿病との関連が指摘されて以来、我々は同遺伝子の異常について検索を進めて来た。今回我々は一般の糖尿病症例のなかで、ミトコンドリア遺伝子の3243部位の遺伝子異常がどの位の頻度で認められるかを筑波大学及び関連施設受診中の患者を対象に調べた。インスリン非依存型糖尿病(境界型を含む)300名、インスリン依存型糖尿病94名、非糖尿病症例115名の末梢血よりDNAを抽出しpolymerase chain reaction(PCR)を用いてミトコンドリア遺伝子の一部を増幅した。増幅したDANを制限酵素Apalを用いて消化し3243部位のA-G点変異が存在するか否かを調べた。Apalにて消化された症例についてはPCR直接シークエンス法を用いて、遺伝子配列を確認した。その結果インスリン非依存型糖尿病症例300名中3名において、同点変異が認められ、その頻度は1%であった。同変異を有する症例は、これまで報告されていたような感音性難聴が著しいIDDM症例ではなく、1例はIGT,1例は若年発症NIDDM,1例は中年発症のNIDDM症例で、いずれの例でも日常、著しい難聴は示していなかった。最後の例ではオ-ジオメトリーを施行したところ、高音域において、軽度の閾値の低下が認められた(JCEM:印刷中)。このことより、同点変異はこれまで発見された遺伝子異常と比較して、かなり高頻度に認められ、必ずしも特殊な病型を示さず、通常認められるNIDDMと表現型がほとんど同じものもある、ことが判明した。また同点変異がslowly progressive IDDM症例に通常の10倍以上の頻度で認められる、ことが報告されており、ミトコンドリア遺伝子異常の自己免疫への関与が疑われていた。そこで我々は自己免疫性のType1糖尿病症例及び同疾患に合併することの多い自己免疫性甲状腺疾患(Basedow病、橋本病)症例を対象に3243部位のA-G点変異の有無を検索した。その結果自己免疫疾患では同点変異は一例も認められず、同点変異の自己免疫への関与は少ないことが判明した(Lancet:344:1086)。
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