研究概要 |
1,甲状腺細胞に対する放射線の生理学的な反応の解析 長崎被爆者やチェルノブイリ事故後の疫学調査の結果、甲状腺組織は放射線照射により癌化しやすい組織であることが報告されているが、細胞レベルでどのような反応がおこっているかについては理解されていない。我々は甲状腺初代細胞および甲状腺癌細胞株に放射線を照射することでどのような反応がおこるか解析をおこなった。p53正常の初代細胞ではp53変異を持つ癌細胞に比べ放射線照射後の生存率の低下を認めることがわかった。さらに照射後の細胞周期を調べると初代培養細胞ではG1期で細胞周期の停止(G1アレスト)を誘導されるが癌細胞ではG1アレストを認めずG2期での細胞周期停止(G2アレスト)を認めた。即ちG1アレストは正常p53に依存性であるがG2アレストは正常p53に非依存性であることがわかった。さらに放射線照射後のアポトーシスに関しては甲状腺細胞ではp53の状態にかかわらず起こりにくいことがあきらかになった。正常p53により転写活性が増強する遺伝子群の放射線照射後の発現増加について調べたところG1アレストに関与する遺伝子p21/WAF1の発現の増加は認めたがGADD45遺伝子の発現は不変であり、他の組織との放射線照射後の細胞内反応の違うことが明らかになった。 2,甲状腺髄様癌における遺伝子異常 散発性の甲状腺髄様癌においてRET癌遺伝子の変異について解析したところ、コドン918の部位に40%の頻度で変異があることが明らかになった。この変異が髄様癌の発症の一因になっていることが推測された。
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