研究概要 |
rat甲状腺癌細胞株FRTCを用いて、新しい甲状腺癌治療法の検討を行った。まず、TSH受容体(TSH-R)抗体を分子生物学的手法を用いて作製を試みた。大腸菌JM109に、vector pGX2Tに組み込んだrat TSH-R cDNA発現させ、大腸菌より蛋白を精製した。TSH-R蛋白は、Glutathione S-transferaseとの融合蛋白として発現されカラムにて回収されるはずであったが、回収率は非常に低く免疫を行うのに充分な量ではなかった。また、哺乳動物由来の細胞に組み込むため、vector pEF321-FLを用いてTSH-R cDNAをcos7細胞に発現させた。この細胞は機能的TSH-Rを発現していたが、蛋白として分離すると発現量が少なく、高力価の抗体作製はできなかった。ペプチドを用いた抗体作製には、TSH-Rのペプチドに対する抗血清はできたが、抗体の分離精製が困難で、特異的抗体と抗癌剤との結合物が作製できなかった。抗血清を全て用いたり、そのIgG分画を用い、第2抗体と抗癌剤結合物を作用させる方法も試みたが、あまり特異的作用が期待できなかった。現在、新たにvectorをBCMGSNeo(J Exp Med 172:969,1990)に変えて発現蛋白量の増加を図り、抗体産生を検討中である。 FRTCに発現しているrat c-mycに対するantisense oligonucleotideを用いると、FRTCの増殖は抑制されたが、持続的に抑制はできず、一過性の効果にとどまった。しかし培養液中でも分解されにくい、phosphorothioate化したantisense oligonucleotideを用いたところ、増殖抑制効果は著明で、しかも持続性であった。これを、in vivoにて投与する計画も考案中であるが、特異性の問題とendonucleaseの作用をいかに抑えるかが残された問題である。 FRTCに増殖にprotein kinase C(PKC)が関与しており、PKCを抑制するとFRTCの増殖抑制が起こることが判明した。PKCの阻害剤のstaurosporinや、PKCのdown regulationを起こすphorboi esterは、PKC mRNAの発現だけでなく、TSH-RやIGF-1-P mRNAの発現をも抑制した。これらの薬剤は、特異性の問題を解決できればFRTCに対しての有用な増殖抑制物質と思われる。 特異的cytotoxic T cel1の誘導は、FRTCを抗原としてFisher rat脾細胞での誘導を試みた。誘導されたcytotoxic T celは、FRTCに対してもin vitroにて細胞障害性を有していたが、その効果は弱くしかも持続的でなかった。しかし、脾細胞をlectinにて刺激した培養上清を添加すると、細胞障害性が上昇した。上清のみにも細胞障害性を認めた。今後、上清中の細胞障害因子の検討や、上清にて刺激された脾細胞を用いたin vivoでの効果の検討、さらにcytotoxic T cel1を増殖させる手段を考案する必要がある。また、recombinant TSH-Rを抗原とする誘導も検討中である。
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