研究概要 |
本研究はヒト甲状腺癌の細胞内情報伝達系の異常をあきらかにし、その異常の本体を研究することにより甲状腺癌の新しい治療法を開発することを目標にしている。平成8年度は甲状腺癌の転移の分子機構とくに細胞外基質と細胞の接着がどのように甲状腺癌の転移に影響するか、c-MET(HGFレセプター)が発現している癌はどのような特徴があるかを検討した。1.甲状腺癌におけるFAK,HGF役割:甲状腺癌組織においてFAKのmRNA発現をRT-PCRで、蛋白の存在を免疫染色で示した。また培養甲状腺癌細胞をHGFで刺激したところFAKはリン酸化された。また転移甲状腺癌においてはFAKは過剰に発現していた。したがって甲状腺の細胞外基質からの情報伝達には接着斑におけるFAKが重要な役割を担っており、HGFの作用の一部はFAKのリン酸化介していることが示唆された。またc-MET陽性の癌は、全例10年後にはリンパ節に転移をみとめた。2.甲状腺癌のアポトーシス:甲状腺癌細胞はTSH存在下ではアポトーシスが抑制されていたが変異ラス遺伝子を導入すると癌細胞は血清を除いたのみでアポトーシスに陥った。この過程ではICE様プロテアーゼの活性化があり、その結果FAKの断片化が認められた。したがってラス遺伝子の変異のみで癌細胞の増殖は早くなるがアポトーシスにより細胞死がおこり予後は悪くならないと推定された。3.甲状腺癌の予後を決定する因子:伊藤病院で1977年以後、甲状腺癌の手術をうけ予後の追跡できた821例の対象に検討した結果、危険因子として性、手術時年齢、甲状腺腺内播種、転移、原発性巣の大きさが癌死亡と相関を認め、これは従来の成績と一致した。ラスは予後決定因子とはならなかった。しかし、c-MET,AKの過剰発現が転移と関係することがあきらかとなった。
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