ラット胎仔下垂体における成長ホルモン産生細胞は胎生19日に免疫組織化学的に検出可能になる。しかし、GH細胞の分化の指標となると思われるGH遺伝子の転写調節因子、pit-1の発現は胎生15日から認められることより、GH細胞への分化の決定後、実際にGHを合成し始めるまでには数日を要することになる。この発達段階を経た幼若なGH細胞は、胎生18-19日にかけて起こる胎仔血中のコルチコステロン濃度の上昇に呼応してGH合成を開始することを申請者らはin vivoの実験で示した。本年度の研究では、このグルココルチコイドロによるGH産生誘導をin vitroで再現することに成功し、その分子機構の解明を試みた。 胎生18日ラットより下垂体を得、αMEM無血清培地で24時間培養した。このとき、培地に50nMのデキサメサゾン(DEX。合成グルココルチコイド)を添加すると培養組織中にGHmRNAが誘導されたDEXを添加しなかった対照ではGHmRNAの発現は認められない。誘導されたGHmRNAレベルは胎生19日の正常下垂体のGHmRNAレベルと同等かあるいはそれ以上であり、この実験系はin vivoで認められたグルココルチコイドによるGH産生誘導をin vitroで再現するものであると考えられる。また、この結果はDEXの作用点が下垂体にあり、母体からの液性因子や、胎盤機能さらには胎仔の視床下部の影響はDEXによるGHmRNA誘導には必須ではないことを示唆している。胎生17日下垂体を同様に処理した場合、誘導されるGHmRNAレベルは明らかに低下した。これはDEXに反応しうるGH細胞の数がこの時期の下垂体には少ないためと考えられる。DEX添加培地中で培養しても5時間あるいは10時間後ではGHは誘導されないが、10時間DEXを作用させればその後は培地中のDEXの有無に関わらずGHmRNAの合成が起こる。また、タンパク質合成阻害剤であるcycloheximideはDEXの作用を完全に抑制した。これらの結果はDEXによるGH産生の誘導はDEXのGH遺伝子への直接作用によるものではなく、DEXにより誘導されGH遺伝子の転写を活性化するタンパク質により仲介されていることを示している。
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