研究概要 |
IGF-IIの生物作用と病態生理的意義を明らかにするため以下の検討を行った。1)低血糖を呈する膵外腫瘍(NICTH)におけるIGF-IIに関する検討:IGF-II遺伝子はgenomic imprintingされているが,ある種の胎児性腫瘍でloss of imprinting(LOI)されていることが報告されている。IGF-II産生NICTHでも検討したところ6例中5例でLOIを認め,このLOIがIGF-IIの過剰発現に関与している可能性が考えられた。更に,NICTH以外の腫瘍についても検討し,副腎腫瘍,胃神経線維腫でLOIを認めた。これら腫瘍におけるIGF-IIのLOIと腫瘍発育の関係についても検討を進める予定である。2)インスリン抵抗性肥満マウスにおけるIGF-IIの低血糖作用に関する検討:IGF-1,IGF-IIともインスリン抵抗性肥満マウスにおいて血糖降下作用を示した。この作用機序を明かにするため,IGF-I,インスリン,IGF-IIの各受容体への親和性を変化させたIGF-IIの誘導体を用いて検討したところ,IGF-I/インスリン受容体の親和性に比例して血糖降下作用は大であった。この成績はインスリン抵抗状態においてはIGF-I受容体を介して血糖降下をきたすと考えられた。3)現在行われているIGF-IIのRIA測定にはIGF結合蛋白(IGFBP)が干渉し,その測定値に影響を及ぼしている。現時点でIGFBPを分離するためのRIA測定の前処理として優れているのはゲル濾過法である。そこでIGFBPsの干渉なしに高感度にかつ簡便にIGF-IIを検出しうるWestern dotblot(WDB)法を確立した。このWOD系を用いて脳脊髄液中のIGF-IIを測定し,ゲルろ過で前処理してRIAで測定したIGF-IIを比較した。WODで測定したIGF-IIはゲルろ過処理RIA値と良く相関し(r=0.96),脳脊髄液中のIGF-II値はWODにより簡便に評価しうると考えられた。
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