研究概要 |
IGF-IIの生物作用と病態生理的意義を明らかにするため以下の検討を行った。1)低血糖を呈する膵外腫瘍(NICTH)におけるIGF-IIに関する検討:IGF-IIを産生するNICTHにおける大部分のIGF-IIは大分子量IGF-II(11〜18kDa)であるが,この大分子量IGF-IIの本体は未だ明かでない。我々はNICTHの大分子量IGF-IIも健常人でみられる大分子量IGF-II同様にO-glycosylationをうけており,NICTHでは症例により糖鎖のサイズが異なっていることを明かにした。この大分子量IGF-IIの生物活性についても脂肪細胞を用いた系で検討したが,Zapfらの報告同様anthentic IGF-IIと差を認めなかった。しかし,インスリン受容体が豊富な脂肪細胞の系のみでは大分子量IGF-IIがより強い生物活性を持たないと結論することはできず,IGF-I受容体を豊富に有する筋細胞での検討が必要と考え実験計画中である。IGF-II遺伝子はgenomic imprintingされているが,ある種の胎児性腫瘍でloss of imprinting(LOI)されていることが報告されている。IGF-II産生NICTHでも検討したところ6例中5例でLOIを認め,このLOIがIGF-IIの過剰発現に関与している可能性が考えられた。2)インスリン抵抗性肥満マウスにおけるIGF-IIの低血糖作用に関する検討:この肥満マウスではIGF-I,IGF-IIとも血糖降下作用を示した。更に,IGF-I,インスリン,IGF-IIの各受容体への親和性を変化させたIGF-IIの誘導体を用いて検討したところ,IGF-I/インスリン受容体の親和性に比例して血糖降下作用は大であった。この成績はインスリン抵抗状態においてIGF-I受容体を介して血糖降下をきたすと考えられた。3)現在行われているIGFの測定にはIGF結合蛋白(IGFBP)が干渉し,その測定値に影響を及ぼしている。そこで,IGF-IIをIGFBPsの干渉なしに高感度に検出しうるドットブロット法を確立した。この系を用いて脳脊髄液中のIGF-II量を簡便に評価することが可能となった。
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