血管壁において生物活性を発現するナトリウム利尿ペプチド受容体にはA受容体とB受容体が存在する。今回、我々はこれら受容体サブタイプの生体血管組織における意義を明らかにするため、高レニン性高血圧モデルであるSHR-SP/Izm、低レニン性高血圧モデルであるDOCA食塩高血圧ラットおよび肥満、糖尿病モデルであるWistar fattyラットにおいて大動脈壁A、B受容体mRNA発現量をRNAase protection assayにて定量し、更に、高血圧ラットにおいて降圧剤投与が血管壁A、B受容体遺伝子発現におよぼす影響についても検討した。その結果、SHR-SP/Izm、DOCA食塩高血圧ラットおよびWistar fattyラットの大動脈A受容体mRNAレベルは対照に比し各々2.2倍、1.7倍、3.9倍と有意に高値を示した。B受容体mRNAレベルは高血圧ラットでは対照と有意な差を示さなかったが、Wistar fattyラットでは対照ラットの約1.5倍と有意に高値を示した。高血圧ラットにおけるアンジオテンシン変換酵素阻害剤デラプリル、Ca拮抗剤マニジピンの投与は共に同程度の有意な降圧を示したが、デラプリルにおいてのみ大動脈A受容体mRNAレベルの正常化を認めた。B受容体mRNAレベルは変化しなかった。これら生体血管における変化とは対照的に、培養血管平滑筋細胞ではA受容体は検出されず、一方、B受容体は著明な増加を示した。さらに、腎臓組織ではこれらの変化は認めず、血管に特異的な変化であることが示唆された。以上から慢性病態の生体内血管壁ナトリウム利尿ペプチド受容体の変化は、サブタイプのスイッチングではなくA受容体のアップレギュレーションにより特徴づけられ、それには血圧以外の因子が関与する事が示唆された。また、血管壁におけるナトリウム利尿ペプチドA、B受容体遺伝子の発現は、各々異なる機構により制御されているといえ、今後その調節機序の解明が必要である。
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