研究概要 |
【目的】血清脂質代謝異常の1つである低比重リポ蛋白(LDL)の量的増加のみならずLDLの質的変化(small dense LDL:sLDL)が高頻度に冠動脈疾患患者に認められることよりsLDLが動脈硬化症への危険因子として注目されている。特に,高トリグリセリド(TG)血症状態でsLDLが出現しやすいことは知られているが,sLDLの生成機構に関しは不明な点が多い。本研究は高TG血症状態での動脈硬化性sLDLの生成機構をin vivoおよびin vitroの両アプローチにより解明することを目的としている。【平成6年度(初年度)の実績】LDL粒子サイズに影響を与える高TG血症の成因解析の結果,高TG血症はリポ蛋白リパーゼ(LPL)遺伝子異常ヘテロ接合体による低LPL症にTG合成亢進因子(アルコール等)の合併により発症することを明らかにした。高TG血症の持続はHDL粒子に結合している脂質転送酵素(LTP)の働きによりHDL粒子をTG-richHDLに変化させ,このHDLの変化によりLDL粒子をTG-richでコレステロールエステル(CE)-poorLDL粒子に変換させる。このTG-rich/CE-poorLDL粒子のTGが肝性トリグリセリドリパーゼ(HTGL)により水解され,sLDLが生成するものと推定された。【平成7年度の実績】VLDL→IDL→LDLへの異化代謝過程でIDL→LDLへの変換およびLDL粒子のTG水解はin vitro実験によりHTGL酵素によって行われていることが明かとなった。更に,これらの代謝過程の正当性はHTGL酵素完全欠損症患者のリポ蛋白分析により,IDLおよびTG-richLDL粒子が異常蓄積することにより確証された。正常血清TG値(50mg/dlから150mg/dl)の対象者から得たLDL粒子のTGをHTGL酵素で水解しても、TGのLDL粒子に対する占有体積が小さいためにLDL粒子サイズはほとんど変化しなかった。ところが,LDL粒子を高TG-richリポ蛋白(VLDL)粒子,HDL粒子およびLTP酵素の存在下で反応すると,LDL粒子はTGを受け取り,コレステロールエステル(CE)を失い,TGの占有体積が大きなTG-rich/CE-poorLDLに変化することが判明した。このようなTG-rich/CE-poorLDLをHTGL酵素でTGを水解した場合,LDL粒子サイズの小型化を始めてin vitro実験で証明することに成功した。
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