研究概要 |
私達はこれまでに,エリスロポエチン(エポ)レセプターのC末端領域はPhosphatidylinositol3-kinase(PI3K)と結合することを見出しているが,この領域が増殖刺激伝達以外のどのような機能を担っているかを検討するため,この領域を欠如したレセプターおよび細胞内膜近位部の点突然変異によりJak2キナーゼ活性化能を失ったレセプターを,BaF3細胞に発現させエポ刺激によるヘモグロビンの発現を指標に赤芽球系への分化誘導能の検討を行った.その結果,PI3Kとの結合能を有するレセプターのC末端領域は分化誘導にも必要でなく,Jak2活性化能を有する膜近位部がやはり分化にも必要であることが判明した(投稿準備中).また,私達はエポレセプターC末端領域の機能を探る過程で,SH2領域を有するチロシンホスファターゼであるHematopoietic cell phosphatase(HCP)が,やはりこの領域のチロシンリン酸化に依存してエポレセプターと結合することを見出した(Blood85:87-95,1995).この結合は,C末端領域による増殖刺激抑制に関与している可能性が高く,今後より詳細な検討を要する. エポ刺激によるRas/MAPキナーゼ経路活性化につき検討したところ,エポ刺激はRas活性化に関与しているShcのチロシンリン酸化とGrb2/Ashとの結合を誘導することを見出した.これらの現象はC末端部を欠いたレセプターではほとんど認められなかった.さらに,エポ刺激はRasの下流にあるMAPキナーゼの活性化ももたらしたが,この活性化もやはりレセプターのC末端領域に依存性を示した.これらのことよりエポレセプターはShcのチロシンリン酸化とGrb2/Ashとの結合を介してRas/MAPキナーゼ経路を活性化すると考えられる.しかし,この経路の活性化は増殖シグナル伝達に必須ではないレセプターのC末端領域に依存しており,レセプターからのシグナル伝達における意義の解明は今後の課題である(J.Biol.Chem.269:29962-69,1994).
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