研究概要 |
代表的抗白血病剤が臨床的に投与される際の血中濃度時間曲線の推移を正確に反映した条件下で薬剤の代謝・作用が如何に行われているか、さらには単剤毎ではなく通常行われる多剤併用投与下で各薬剤の代謝・作用が如何に行われているかはきわめて重要である。本年度は特にcytosine arabinoside(ara-C)について新しく開発された血中薬剤濃度自動シミュレーター作動下で培養実験系を確立し、その結果を静置条件下での培養系でもdataと比較検討した。 本実験系において白血病細胞株K562をara-C存在下に培養し、ara-Cによる細胞増殖阻害効果につき検討を進めた。問題点としてシミュレーターにより培地濃度を制御するために、培地を攪拌する機械的な刺激により細胞の増殖が阻害されることや、濃度変化のための培地交換に伴う細胞のlossがあげられた。前者はdoubling timeが約16時間と非常に増殖の早い細胞株を樹立したこと、後者は細胞増殖阻害効果をclonogenic assayにより求めることにより解決された。その結果臨床的中等量療法に相当するara-C1g/m^2を2時間で投与した条件(Cmax7.98μM,t1/2β 18.3min.)でシミュレートするとその増殖阻害効果はara-C非添加群に比し93%であった。また通常量に相当する0.1g/m^2を2時間で投与した条件(Cmax0.80μM,t1/2β 18.3min.)では75%であった。別に、同培養細胞系を用い、ara-C存在下で24時間、72時間静置培養後のIC50の値をclonogenic assayにより求めたところ各々0.15μM,0.003μMであり極めて時間依存性の強い薬剤であることが確認された。またシミュレーターによる系で得られた、93%,25%の阻害を示すara-C濃度は静置条件下では各々0.1μM,0.02μMであった。両者を比較検討すると、同等の細胞増殖阻害効果を得るためにシミュレーター条件下の値として仮にCmaxを用いるとと、約80倍の高濃度を要することが明らかとなった。以上より臨床効果を静置培養による増殖阻害効果で推測することは困難でありシミュレータを用いた検討の重要性が明らかとなった。現在、本検討に加え白血病治療のkey drugであるara-Cと抗腫瘍性抗生物質の血中動態を同時にシミュレートした条件下でも、同様の検討を行っている。
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