ハムスター腎より微小単離したヘレンの細い上行脚(ATL)をin vitroで倒立顕微鏡下に灌流し、管腔側よりCa感受性蛍光色素Fura IIのアセトキシメチルエステルであるFura II-AMを負荷し、ATL細胞内にFurallを蓄積させた。顕微蛍光測光装置のOSP-3により細胞内Ca濃度を測定し、細胞外の溶液の条件を変えて細胞膜上のCa輸送体について検討を加えた。管腔側の溶液中よりCaを除去しても細胞内Ca濃度は変わらなかったが、基底膜側よりの除去では細胞内Caが低下し、ATL細胞の経細胞膜Ca透過性がおもに基底膜側にあることが明らかとなった。基底膜側のCa除去による細胞内Ca濃度の変化は同側の溶液中に加えられた低濃度のnicardipineにより完全に抑制され、基底側膜上にnicardipine感受性Caチャンネルが存在することが証明された。また、シアン化ナトリウムやcalmodulinにより、細胞内Caが著しく上昇し、calmodulin感受性Ca-ATPaseが存在することが明らかとなった。以上の実験結果から、ATLは管腔側膜にはCa透過性を持たず、基底側膜上に存在するCaチャンネルとCaポンプの相互作用により、細胞内Caが低く維持されていることが証明された。このことは、これらの輸送体に対する作用を持つホルモン等が存在するならば、細胞内Caのmodulatorとしての作用を持つ可能性を示唆している。また、Caの細胞内濃度の変化がこの部位の尿細管での最も重要な役割であるClの受動的再吸収を調節するという従来のわれわれの仮説を考えた場合、今後nicardipineやcalmodulin等の物質のCl輸送に対する検討が重要と考えられる。
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