成人の難治性ネフローゼ症候群の、主たる原因疾患となっている膜性腎炎の発症機序を解明するため、実験モデルである、ラット・ハイマン腎炎について研究をすすめてきた。 病因抗原の存在するラット尿細管上皮刷子縁を、蛋白分解酵素処理して可溶化した分画より、免疫物理化学的手法によって、分子量12万の病因抗原を分離しえた。この抗原を、同種動物に注射すると、膜性腎炎を起こし、その病変部位に抗体と共に病因抗原の沈着が証明され、その病原性が確立された。我々の分離した尿細管由来のこの抗原は、諸家によって多数報告されてきているハイマン腎炎の病因抗原の中で、最も分子量が小さく、純化の進んだものである。この抗原から、細胞融合法によってモノクロナール抗体を作成し、以下の研究をすすめた。 先ず、腎におけるこの病因抗原の存在部位を、蛍光抗体法、ならびに免疫電顕法により詳細に検討した。他の報告とは異なり、抗原成分は、尿細管上皮刷子縁にのみ存在し、正常糸球体には存在しないことを明確にした(業績1.TSUKADA Yほか)。さらに、発症機序について検討の結果、抗原注射後、膜性腎炎の発症に先立って、動物の血液中に病因抗原を含む免疫複合体が循環しており、これが糸球体基底膜に沈着して、膜性腎炎を発症すると考えられた。病因抗原が正常の糸球体に存在しないという成績と合わせ考えると、従来から考えられている、基底膜in situでの免疫複合体形成機序は、成立し難いことを明らかにした(業績2.MAEZAWA Aほか)。 現在、さらに尿細管上皮刷子縁に存在する抗原の多様性について検討を行うと共に、分離抗原のアミノ酸排列を分析し、それよりDNA・プローブを作成し、腎組織における抗原のmRNAの発現部位を同定すると共に、病因抗原のcDNAのクローニングを検討中である。
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