研究概要 |
近年,遺伝子導入の技術の進歩と共に,遺伝子治療の可能性が現実化しつつある.アデノウイルスベクターは生体への遺伝子導入に用いるベクターとしての長所が多いと考えられており,私たちは腎疾患の遺伝子治療におけるアデノウイルスベクターの有用性を証明すると共に,腎への遺伝子導入技術の確立と腎不全治療への応用を目的としてこの研究を行なっている。本年度において,私たちはin vitroの系において腎糸球体由来細胞(ラットメサンギウム細胞)、尿細管由来細胞(MDCK細胞,LLCPK1細胞)のすべてにアデノウイルスベクターが容易に取り込まれ、きわめて効率よくReporter gene(lacZ)を発現することを示した。さらに生体ラットに対する遺伝子導入実験を行ない、lacZの発色反応およびlacZに対する抗体を用いて免疫組織化学的検討を行ない遺伝子発現を調べた。これにより、腎動脈への直接注入は遺伝子導入効率が劣ることが明らかとなった。またラットHGF遺伝子コード領域を組み込んだアデノウイルスベクターを癌研究所濱田洋文部長との共同研究で作成した。以上のようにin vitroの系において腎糸球体由来細胞と尿細管由来細胞のすべてにアデノウイルスベクターが容易に取り込まれ、きわめて効率よくReporter gene(lacZ)を発現させることが示されたことにより,私たちの方法が、in vivoの系においても腎に対する応用の可能性が高いことが明らかにされた。腎動脈への直接注入によって期待される導入効率が得られなかったため、今後はさらに最適の導入方法,条件を追求し、現在の遺伝子導入法を改良してゆく必要がある。
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