研究概要 |
本研究は腎疾患の遺伝子治療におけるアデノウイルスベクターの有用性を検討すると共に,腎への遺伝子導入技術の確立と腎不全治療への応用を目的として立案された。 平成7年度においては以下のような結果を得た。 1.アデノウイルスベクターの作成 ラット肝細胞増殖因子(HGF)遺伝子コード領域を組み込んだアデノウイルスベクターを癌研究所濱田洋文部長との共同研究で作成し、実験に使用した。2.生体腎への遺伝子導入の方法の開発 アデノウイルスベクターの(1)動脈内注入(2)直接注入(3)静脈注入(4)尿管からの逆行性注入を行ない、それぞれ以下の方法により遺伝子導入の効率を評価した。3.発現遺伝子,遺伝子産物の検出 導入2〜8週後に導入遺伝子の発現を染色により、またはmRNAの発現をNorthern blot法により測定した.またHGFはimmunoradiometric assay(IRMA)によって測定した。これらの成績では上記(1)^〜(4)のいずれの方法においても、遺伝子治療を試みるうえで実用的な量の遺伝子発現は得られなかった。これは同時期に他施設より発表された結果と一致する所見で、腎への遺伝子導入におけるアデノウイルスベクターの限界を示唆する成績である。4.臨床的検討 慢性腎不全におけるHGFの臨床的な意義について慢性血液透析患者、腎移植患者、保存期慢性腎不全のそれぞれについて血中HGFの測定を行ない、腎機能の変化と血中HGFの関係について解析した。腎不全の進行に伴い血中HGFは増加するが、移植による腎機能が正常化してもなおHGF高値が続くことから腎機能の変化によらないHGF産生刺激機構が示唆された。5.慢性腎不全の進行機序の解明 慢性腎不全の進行における糸球体高血圧での、糸球体細胞への機械的伸展刺激の意義を検討するために、血管平滑筋細胞、メサンギウム細胞に張力刺激を加えながら培養し遺伝子発現の変化を検討した。これにより、機械的伸展刺激によるPTHrP,TGF-β等の遺伝子発現の増加が認められた。このような方法により、遺伝子治療実現への基礎的検討を目的とした、慢性腎不全の進行機序に関する分子生物学的アプローチを進めている。
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