本研究では、IgA腎症の発症の病因として、Haemophilus parainfluenzae(HP)の外膜成分に対するIgA型免疫複合体に焦点を絞り、本症患者血清中の抗HP抗体の性状およびその抗体価と腎組織病変との関係を解明することを目的とし、研究を遂行した。そのため、研究実施計画に沿って、IgA腎症44例と他の糸球体疾患62例において、HPの外膜の構成成分を抗原として、ELISAによる患者血清中のHPに対するIgA、IgG、IgM型抗体を測定し、腎組織病変との関係およびHPの外膜抗原のアミノ酸分析を検討した結果、以下に示す新たな知見を得た。 1.IgA、IgGおよびIgM型抗HP抗体は、IgA腎症および他の糸球体疾患の全患者血清中に存在し、それらは分子量19.5、30.0、33.0および40.5kDのHP外膜成分を認識した。 2.HPの外膜抗原は、アミノ酸配列からHaemophilus influenzae(HI)の外膜蛋白のP6 precursor、P5およびP2と高い相同性を示す、HP固有の外膜抗原であることが明らかとなった。 3.IgA腎症群ではIgA型抗体価と、糸球体病変の程度(p<0.003)および腎内細動脈硬化の有無(P<0.02)との間に有意な相関が認められた。 4.IgA腎症の肉眼的血尿を伴う群は、伴わない群に比して、IgA型抗体価は有意に高値を示した(P<0.01)。 以上より、IgA腎症患者血清中に、IgA型、IgG型およびIgM型抗HP抗体が存在し、それらはHIの外膜成分と高い相同性を示すHP固有の外膜成分を認識し、特にIgA型抗体価は、IgA腎症患者の糸球体病変の程度、硬化病変の有無、腎内(細)動脈硬化病変の有無および肉眼的血尿の有無と高い関連性がある、との結論を得た。
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