本研究では、IgA腎症の発症の病因として、Haemophilus parainfluenzae(HP)の外膜成分に対するIgA型免疫複合体に焦点を絞り研究を遂行し、以下に示す新たな知見を得た。1.IgA、IgGおよびIgM型抗HP抗体は、IgA腎症および他の糸球体疾患の全患者血清中に存在し、それらは分子量19.5、30、33および40.5kDのHP外膜成分を認識した。2.HPの外膜抗原は、アミノ酸配列からHaemophilus influenzae(HI)の外膜蛋白のP6 precursor、P5およびP2と高い相同性を示す、HP固有の外膜抗原であることが明らかとなった。3.IgA腎症群ではIgA型抗体価と、糸球体病変の程度および腎内細動脈硬化の有無との間に有意な相関が認められた。4.HPに対するIgA型およびIgG型抗体の抗体価は、IgA腎症群では他の糸球体疾患群に比して有意に高値を示した。5.IgA腎症群において、HPに対するIgA型とIgG型、IgA型とIgM型、およびIgG型とIgM型抗体の抗体価の間に、有意な相関を認めた。6.IgA腎症群においては、糸球体病変が高度なほど、IgA型抗HP抗体価は高値を示した。以上より、IgA腎症患者血清中に、IgA型、IgG型およびIgM型抗HP抗体が存在し、それらはHIの外膜成分と高い相同性を示すHP固有の外膜成分を認識し、特にIgA型抗体価は、IgA腎症患者の糸球体病変の程度、硬価病変の有無、腎内(細)動脈硬化病変の有無および肉眼的血尿の有無と高い関連性がある、との結論を得た。さらに、IgA腎症患者は、HPの外膜抗原に対してpolyclonal activationを伴うIgAクラススイッチによる抗体産生系が活性化されており、特異的にIgA型抗HP抗体を産生することにより、HP抗原との免疫複合体を形成し、糸球体沈着を惹起することより、IgA腎症の糸球体病変を引き起こすことが示唆される、との結論を得た。
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