研究概要 |
H6年度は、経上皮電位測定の効率改善のための実験装置改良と管腔側作用物質のスクリーニングを当初計画した。前者については必要機材の設置を終え、実験中にreal timeで電位の記録がコンピューターに取り込まれ、記録保存が可能となった。ただし、実験中の突発的なノイズの発生の際に生じる撹乱の処理がいまだ不十分であり、引続きプログラムの調整中である。 管腔側作用の整生理性物質の検索では、prostaglandin E2がウサギ皮質部集合管において明らかな管腔側作用をあらわすことを確認したため、平成6〜7年にかけて、他のホルモンの管腔側作用の検索より、このprostaglandin E2の管腔側作用の解明を優先して行った。その結果: 1)管腔側Prostaglandin E2の管腔側系が経上皮電位(Vt)を一過性の過分極につづいて脱分極させる,2)Vt変化作用は基底膜作用とはちがう固有の作用であり、飽和濃度(2μM)の基底膜側prostaglandinE2存在下でもみられ,3)また管腔側バゾプレシン存在下でもみられる,4)prostaglandin I2は基底膜からはE2類似のVt変化を来すが、管腔側からはVtを変化させない,5)Vt変化作用はInMから見られはじめ、1μMで最大反応を示す,6)Vt変化作用はNa^+/K^+‐ATPases阻害剤であるouabain(基底膜側)や、Na channel阻害薬amiloride(管腔側)存在下では消失するがK channel阻害薬barium(管腔側)では抑えられない,7)Vt脱分極は管腔側から基底膜側への経上皮Na輸送を抑制する,8)Vt脱分極時期に尿細管上皮の水透過性が有意に亢進する。ただし程度は弱い。 以上のごとく管腔側rostaglandin E2の作用は我々が既に報告した管腔側バゾプレシンの作用とは、Vt変化のパターン、ouabain感受性、Na輸送、水透過性への作用の点で明らかに異なった固有の作用であり、生体内においても尿産生調節に関与している可能性が示唆された。 平成7年は、細胞内電位測定のための機材設置、調整を開始し、また中断していた管腔側作用を持つホルモンの検索を再開した。前者は現在機材設置調節中である。管腔側作用を持つホルモンの検索では管腔側オキシトシン、ブラディキニン、ドパミン、アドレナリンに経上皮電位の変化をみとめ、管腔側アンギオテンシンII、アデノシンでは変化が見られなかった。今後は前者のホルモンについて管腔側作用のより詳細な検討を進め、またバゾプレシンとprostaglandin E2の基底膜側、管腔側からの相互作用を検討する予定である。
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