自然発症高血圧ラット(SHR)においては、腎臓でNa再吸収が亢進し、高血圧発症に関与していることが知られていることから、腎Na再吸収に重要な役割を果たす近位尿細管刷子膜上のNa-H交換体(NHE)の活性とそのインスリン感受性を検討した。高血圧発症前の4週齢のSHRと高血圧発症後の8週齢のSHRを用い、対照としてはWistar-Kyotoラット(WKY)を用いた。実体顕微鏡下で近位尿細管を単離し、無血清培地にて37℃、3時間インキュベートした。その後、pH測定用蛍光色素であるBCECF-AMを添加し、潅流槽へと移送して、ガラスピペットにより吸引固定後、細胞内pHの蛍光測光を行った。傍基底膜側のNHE1型は10μMのアミロライドで抑制され、刷子膜上のNHE3型は1mMのアミロライドで抑制されることから、細胞内酸負荷後の細胞内pH回復率を各々の濃度のアミロライド存在下で同一の尿細管で測定し、その差を刷子膜側のNHE活性とした。その結果、4週齢、8週齢ともに刷子膜上NHE活性はSHRでWKYに比し有意に亢進していたが、in vitroでのインスリン処理によるNHE活性刺激作用は両群で差を認めなかった。この活性上昇の成因を検討するために、腎皮質でのNHE3型のmRNA量をNorthern blotを用いて、4週齢と8週齢のSHR、WKYで比較検討したが、いずれの週齢においてもそのmRNA量に両群間で有意差を認めなかった。そこで分子構造の変異による活性の変化を考慮して、NHE3型のcDNAをPCR法により塩基配列を決定した。その結果WKYとSHR間で3カ所に塩基配列の変異が見出され、この変異が高血圧と関連するか否かを、現在linkage analysisを用いてSHRと呑龍ラットの交配雑種を用いて検討中である。
|