研究概要 |
中枢神経発生過程において脳室面で形成された幼若神経細胞は、放射状グリアの突起に沿って皮質へ移動し、層状に規則正しく配列する。この過程に、ニューロン-グリア間の細胞間相互作用、細胞接着因子の発現、神経細胞の位置情報を規定する遺伝子の発現が重要な役割を演ずると考えられている。小脳皮質層構造の形成異常のメカニズムを明らかにするため、正常ならびにリーラーミュータントマウスを用いてプルキンエ細胞ならびに放射状グリアの発生分化の様式について、遺伝子発現のレベルで形態学的解析を行なった。 (1)胎生期小脳の放射状グリアに発現する細胞接着因子tenascinのcDNAをマウス新生仔小脳からRT-PCR法によりグローニングした。そして、digoxigeninで標識したプローブを用いて、小脳発生過程におけるtenascin遺伝子発現様式をin situ hybridization組織化学法により形態学的に観察した。mRNAの局在はalkaline phosphatase標識抗digoxigenin抗体を用いて検出した。 (2)正常マウスにおいては、胎生13日にすでに脳室面神経上皮にtenascin遺伝子発現細胞(tenascin gene expressing cell,TGEC)が一層に配列していた。胎生14日以降、TGECは皮質へ向かって放射状に移動を開始した。そして、胎生16日以降、皮質に数層の層状配列を形成していった。生後5日には、TGESはBergmann gliaの細胞体に相当した一層の配列を形成した。 (3)リーラーマウスの小脳発生過程においては、TGESは脳室面から放射状に移動するが、胎生16日以降においても皮質への層状配列は形成されなかった。 以上の所見から、リーラーマウスにおいてはtenascin遺伝子を発現した放射状グリアの形成、配列の異常が認められ、皮質層構造の形成異常に関与することを示唆する所見が得られた。 さらに、プルキンエ細胞の分化、位置情報に関与すると考えられる転写因子rhombotinのcDNAクローニングを行ない、in situ hybridizationにより小脳発生過程における発現様式の検討を開始している。
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