CMVの胎内感染によって生後になぜ障害が中枢神経系に限局して生ずるのか明らかでない。発育期の異なるマウスのMCMV感染に対する感受性を、尿中MCMVの放出を指標にした全身の感受性、および、ウイルス抗体を用いた免疫組織化学的方法による中枢神経系を含めた臓器別の感受性を解析した。 1)発育期の異なるマウスへのMCMVの感染による尿中MCMVの放出 MCMVは、1X103PFU/μ1のウイルス価で、各発育段階におけるマウス胚および生後のICRマウスへ以下のように感染を行った。a:胎令8.5日の羊膜腔内、b:胎令15.5日胚の腹腔内、c:生後2日目の腹腔内、d:生後11日目の腹腔内、e:生後30日目の腹腔内を注入した。尿中MCMVの検出はマウス胎児線維芽細胞(MEF)を用いたプラークアッセイ法で行った。 胎令15.5日胚にMCMVを腹腔内に注入したマウスでは、生後10日目ころ尿中MCMVの放出が強く次第に減少して、生後23日まで認められた。生後2日目にMCMVを腹腔内投与したマウスでも同様の傾向を示した。一方生後30日目にMCMVを腹腔内投与したマウスでは尿中MCMVの放出は殆ど認めなかった。以上の結果は幼弱なマウスほどMCMVの尿中放出が強くこのウイルスに対する感受性が高いことを示している。 2)発育期の異なるマウスへのMCMVの感染による脳および一般臓器の感受性の比較 発育段階の異なるマウス胚および生後のマウスに上記のごとくMCMVを感染させ、脳および一般臓器(肺、肝臓、腎臓)におけるウイルス陽性細胞の分布を免疫組織化学的に調べた。生後あるいは感染後14日目では、E15.5およびPn2群のマウスのみ脳および肺、腎臓にウイルス抗原陽性細胞を認め、E8.5、Pn11およびPn30群のマウスでは認めなかった。ウイルス抗原は脳においては、大脳皮質および海馬の神経細胞とみなされる細胞に主として限局して認められた。生後あるいは感染後30日目では、E8.5群のマウスにおいて大脳皮質および海馬にウイルス抗原陽性細胞の小さなクラスターを散在性に認め、肺、肝および腎臓では検索した限りでは認めなかった。 以上の結果は、発育期(胎生期および周産期)のマウスの大脳皮質および海馬の神経細胞はMCMVへの感受性が高く、生後比較的長時間残存する傾向を示すことが明かになった。
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