研究概要 |
手術中に突然発生する電撃ショックと熱傷、及び関連する電気的な異常状況を解析しその対策を検討した。 まず、手術用手袋のゴム厚をマイクロメーター測定すると約0.2mm前後と一様ではない。インピーダンスは発振周波数500KHzで把持面を10cm^2と仮定すると数100オーム前後であった。 そこで、ピンポイント凝固モードで30Wから70Wへと徐々に出力を増加させると、縦軸の振幅(電圧値)が増加し、最大出力電圧が約3,000Vで頭打ちとなったが、同モードでピンセットを介しパチパチとスパークを起こすと電圧値は最大6,000Vに上昇したが、この状況ではゴムに穴は開なかった。しかし、スプレーモードでは約60W約5,000Vの出力で、通電約2秒後に発煙と同時に手袋資料に穴が開いた。 穴が開くものはおおよそ54-55W程度からみられたが、製品によってゴムの厚さが若干不均一なものがあって薄い製品では、より低出力で穴が開く傾向であった。また、ゴムにペーストを塗ったり、電極の凸部分をあてると低出力電圧でも穴が開いた。 以上より、電気メス通常使用時のスプレー凝固において、手術用手袋の絶縁破壊が容易に発生しうることが判明した。その後、手術用手袋下熱傷に及ぼす直流電圧の単独の影響を検討したが、天然ゴムでは1/10(10%)のみが9,000Vの高電圧で絶縁破壊をきたしたが、ラテックスゴムでは3/10(30%)が5,000Vまでに破壊された。合成ゴム手袋は高電圧による絶縁破壊を考慮する必要があると思われた。 以上の成績から、電気メス使用時の手袋破壊要因は高電圧が主因を占めるものではなく、低インピーダンス化による電流性の関与が中心と考えられた。実際の手術現場では鉗子や鑷子を握るためにインピーダンスは一層低下して、高周波電流は容易に手袋を通過するようになる。また、同様に手袋に血液や洗浄液が付着したり、手袋ゴムの進展によってもインピーダンスはより低下するので、この絶縁破壊による熱傷はより容易に発生しやすいこととなる。 したがって、手袋下熱傷の防止にはスプレーモード使用の適応に注意を払い、鉗子や鑷子の絶縁コーティングを行って高周波リ-ケージを防ぎ、また、電気メスの周波数、電力の低減化を工夫する必要があると判明した。
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