我々が確立した高頻度突然変異を示す培養ヒト細胞株(RSa)を用い、膵癌患者血清中に突然変異促進因子が含まれているか否かを検索した。膵癌患者血清を当院第一外科ならびに関連他施設より収集し検索した。現在までに検索に供したのは8例で、その内訳は膵頭部癌4例、膵体尾部癌4例であり、前例進行癌である。対照として健康成人(45歳男性)の血清を用いた。まず血清1mlをdye ligand chromatographyにより15〜20の分画に分けた。スクリーニングとして健康人のリンパ球に各分画を添加して30分incubationし、プロテアーゼ活性を誘発する画分を突然変異誘発因子の候補とした。プロテアーゼ活性についてはプラスミノーゲンアクチベータ-の反応系を利用し、^<125>I-fibrinの分解活性を測定した。こうして得られた画分を添加した培養液でRSaを培養し変異原因子である波長254nmを中心とした短波長紫外線を照射した。変異の指標としては薬剤(Ouabain)耐性化を指標とした。結果は対照の血清で生じた形質変異発生率を1として表現すると、8例全ての膵癌患者からの血清画分が2倍から8倍の形質変化発生率を示した。すなわち膵癌患者血清中にはRSa細胞のOuabainに対する致死抵抗性という形質変異の誘発を促進する因子が含まれていた。この形質変異が膵癌細胞に高頻度でみられるk-rasの点突然変異を関連があるか否かは今後の研究課題であるが、ここまでの成果は第53回日本癌学会ならびに第45回日本消化器外科学会で発表した。
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